Saturday, 16 April 2022
10-11AM JST
Speaker: NISHIMOTO Azusa (Professor, African-American literature, AGU)
ポスト公民権運動時代のアフリカ系アメリカ文学を半世紀にわたって牽引し一昨年夏に88歳で没したToni Morrison (1931-2019) は、「[合衆国では]活字にされた黒人文学の起源は奴隷(スレイヴ)体験記(ナラティヴ)にある」とかつて述べた。現在の合衆国にあたる地域でのアフリカ系のディアスポラの歴史は、記録上、1619年にオランダの奴隷船によって水や食料の補給と引き換えにジェイムズタウンに「陸揚げ」された20人の男女から始まる。奴隷制度と制度廃止後も残った人種主義の中で〈ヒューマン〉であることを疑われ蹂躙された経験と、それに抗して自らの〈ヒューマニティ〉を証言する必要性と意思とは、合衆国でのアフリカ系の人々の文学的営為の始まりと深くつながっている。さらにその「活字にされた文学」の周辺には、歴史に名が刻まれなかった人々の奪回不可能だが確かな存在の連なりを示唆して、アフリカ系の書き手たちの想像力/創造力を鼓舞してきた口承文化の領域が拡がっている。
本発表では、そうしたアフリカ系アメリカ文学の背景を参照した上で、まったく異なる持ち味の二人の作家MorrisonとOctavia E. Butler (1947-2006)の仕事の一端を駆け足ながら概観する。Morrisonについては、自らを周縁化する世界で書くという行為をめぐって作家が1980~90年代に繰り広げた議論のいくつかを改めて紐解いてみる。一方、サイエンス・フィクションの分野でアフリカ系の女性作家として初めて高い評価を得たButlerについては、異星生物と人間が相互のサバイバルを賭して交わり共生する世界を描き、ヒューゴ賞とネビュラ賞を受けた短編“Bloodchild” (1984) を紹介する。二人が提示した問題系や世界観を糸口に、〈モア・ザン・ヒューマン〉とアフリカ系アメリカ文学の一筋縄ではいかない交差について考え始めることができれば幸いである。
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